「最近、僕がハマっていること、何だと思います?」
20年来の“行きつけ”の美容室のスタイリストさんが、目の前の鏡の中から話しかけてきました。金髪のロングヘア、オシャレTシャツからのびる腕にはタトゥ。おそらく40代、現在3つの店舗を経営、シャンプー、カットやカラーなども凄腕です。
このお兄さん、音楽フェスとサウナとお酒をこよなく愛しており、いつも私の髪をカット・カラーしながら、いろいろな情報を教えてくれます。実は私もそれらが好き。フェスとサウナは興味があってもなかなか行けないけれど話を聞くことは楽しいものですし、ましてや安くて美味しい“飲み屋”には毎日でも行きたいくらいですから、そちらの話を聞くことはもっと楽しい。
さて、この日はいったんカットを止めて、バックサイドからミニアルバムのようなものを持ってきました。
「これ、見てくださいよ~イイでしょう!」
その冊子を開くと、たくさんのカードが収まっていました。コレクションカードです。「そういえばこのお兄さん、収集好きだったなあ」。以前、収集しているカセットテープを見せてくれたことがありました。アナログ感とレトロなデザインなどで、80年代の洋楽や海外アーティストによる新作が入ったカセットテープが若い世代に人気なのだとか。彼は岡山の田舎にある専門店にわざわざ足を運ぶというニッチさです。店内でかかっている音楽もカセットテープのものなんです。
そんなお兄さんが、今度は何を収集しているのかというと、「東京銭湯コレクションカード」。東京都浴場組合が公式に出しているもので、近年一部で流行っている「鉄カード」「マンホールカード」「ダムカード」などの公共機関が出しているご当地カードの“銭湯版”とも言えるものです。通称「ふろコレ」と呼ばれるらしいこのカード、組合に加盟している都内の全銭湯の番台やフロントで、それぞれ個別のカードが販売されており、銭湯の写真や情報、店主からの一言などが両面にカラープリントされています。1枚100円(税込)で1回の入浴につき1人1枚まで。そこに行ってお風呂に入らないと手に入らない! 品切れのこともあると言いますから、収集癖のある人々の心をくすぐるではありませんか。
黒い専用カードホルダーには、文字がゴールドとシルバーの2種類あり、こちらは1冊1500円(税込)。各銭湯で1人1冊のみ購入できるそうですが、現在品薄らしく、メルカリなどで高値が付いているのだとか。東京の銭湯の数は413軒(2024年12月19日現在)。この1冊に120枚のカードを収納できますが、お兄さんはすでに50枚ほどをフォルダーに収めており、「アホでしょ」と言いながら、満面の笑みで嬉しそうに見せてくれました。
「銭湯のあと、いい店を探して飲むのがまた、最高なんっすよ」
確かに魅力的です。
私もときどき、銭湯や温泉に行った話や、コスパがよくて渋くて美味しい飲み屋の話を彼にしているので、「絶対このお姉さん、このテの話にノッてくるわ~」と思って話をしてくれたのでしょう。
銭湯と言えば、以前住んでいた町にあったお風呂に週1回くらいの頻度で通っていました。また、会社への通り道である隣町の銭湯で“朝風呂”をいただき出社したこともしばしば。さっぱり、スッキリ。銭湯はストレス解消にもってこいなんです。
私にはたいして収集癖はありませんから、銭湯カードを集めたいということより、“銭湯欲”というような想いが、まるでジェットバスのように湧き上がってきました。
お兄さんによると、最近、銭湯が“アツい”のだそう。お風呂がない家なんてほぼ見かけませんから当然集客は厳しいでしょうし、後継者問題もあり廃業する銭湯も多い(令和元年には520の銭湯があったそうです!)。だからこそ、各銭湯は、若者ニーズをとらえて銭湯人口を増やすべく、浴場をきれいに改装したりサウナを設置したり、いろいろな工夫をしているのだと。折からのサウナブームで、1時間以上の「サウナ行列」ができる銭湯もあるのだそうです。
コレクションを見せてくれながら、「この銭湯の近くには、いい飲み屋があるんっすよ。おばあちゃんが1人でやってて、コスパ最高なんっす」……などテンションが上がっていくお兄さんです。
東京都の銭湯のお値段は一律550円(税込)。私は、550円の“パラダイス”と、湯あみ後にいただく一杯の“ご褒美”という密やかなプチトリップを、と~きどき楽しむことにしたのです。
さて、最初はどこに行きましょう。せっかくなので「温泉銭湯」がいいなと思いWebで調べました。その中に以前から気になっていた銭湯が……大田区の蒲田にある「蒲田温泉」です。さっそく「黒いお湯」で有名なこの銭湯に行くことにしました。(つづく)

夜に映える蒲田温泉の看板。なんだかレトロでしょう

550円でストレス解消!会社の帰りに寄れるのがイイ

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